相続の際の遺留分 その1 遺言書があっても守られる権利
そろそろ相続が気になり始めて「特定の相続人に全財産を渡したい!」と考えたり、「親が全財産を特定の相続人に遺そうとしている!」などとモヤモヤしたりしていませんか?
この記事を読むと「遺留分ってなんのこと?」「遺留分はどれくらいあるの?」「遺留分を侵害されたら?」という疑問が解消されます。
「争い事を未然に防ぐためのアドバイス(予防法務)」を得意とする行政書士が、わかりやすく解説します。
相続にまつわる色々なルールを知って、「揉めない相続」をめざしましょう!
遺留分とは?
たとえばあなたのお父さんが、あなたのお兄さんに全財産を相続させるという遺言を遺していたとします。
あなたには法律上、遺産全部のうち4分の1を相続する権利がありました。
でも遺言は、民法で決められている遺産の分割ルールよりも優先され、基本的には遺言通りの遺産分けが行われることになります。
では、あなたは何ももらえないのでしょうか?
いいえ、全財産をお兄さんに相続させるという遺言があった場合でも、あなたには全財産の8分の1を相続する権利が保障されています。(家族構成:父・母・兄・自分の場合)
それが「遺留分」という権利です。
遺留分は、「最低限の遺産を相続できる権利」とも言えます。
遺留分という権利をもつ相続人は、次の3つのうちいずれかの方々です。
- 亡くなった方の配偶者(夫・妻)
- 亡くなった方の子ども(子どもが先に亡くなっている場合は孫)
- 亡くなった方の両親
なぜこの3パターンの方々に「遺留分」という権利があるのかと言うと、亡くなった方の収入で生活をしていることが多いからです。
亡くなった方が「全財産を特定の誰かにだけ相続させたい」と思っても、「配偶者・子ども・両親」には最低限の財産を保障してあげましょう、という目的です。
ですから、亡くなった方の兄弟姉妹には「遺留分」はありません。
兄弟姉妹は、亡くなった方の収入をあてにして生活している、ということはあまりないからです。
※遺留分の有る無しと、法定相続人かどうかは別の話です。
遺留分の割合は?
「遺留分はどれくらいあるのか?」ということも、気になるところです。
遺留分は、相続する人の家族構成によって変わります。
たとえば、遺産を遺すのがお父さんで、お母さんとお兄さんとあなたの3名が相続人であれば、あなたの遺留分は「8分の1」になります。
実際に遺留分はどれくらいになるのか、遺産総額が3千万円あった場合で見てみましょう。
遺産総額には、1年以内に生前贈与した分があれば足されます。
亡くなった方の借金などは、遺産総額からマイナスして計算します。
結婚資金・住宅資金・多大な学費・独立資金などは「特別受益分(とくべつじゅえきぶん)」と言って、遺産総額に足して分配したあと、資金援助された人の遺留分からマイナスすることになります。
例外もありますので「特別受益分」については、違う記事で改めてご説明します。
ここではとりあえず、基本的な遺留分のルールと「遺産総額に足したり引いたりする分がある」ということだけ押さえておきましょう。
遺留分侵害額請求権(いりゅうぶん・しんがいがく・せいきゅうけん)
2019年7月の相続法改正前は「遺留分減殺請求権(いりゅうぶん・げんさい・せいきゅうけん)」と言われていたものです。
遺留分とは?
全財産をお兄さんに相続させるという遺言があった場合でも、あなたは全財産の8分の1の遺産に相当する金銭を請求する権利があります。(家族構成:父・母・兄・自分の場合)
それが「遺留分」という権利です。
遺留分は、「最低限の遺産を相続できる権利」とも言えます。
遺留分という権利についてはわかったけど、実際に「全財産を兄に相続させる」という遺言があった場合は、どうしたらいいのでしょうか?
そんな時に、自分がもらえるはずの「遺留分」相当の金額を支払って欲しいと、お兄さんに請求する権利を「遺留分侵害額請求権」と言います。
以前(相続法改正前)は、遺留分を侵害された場合、現金や土地・建物それぞれについて遺留分に応じた割合で返してもらうことになっていました。(現金の8分の1と土地・建物の8分の1など)
「遺留分侵害額請求権」に改正されたことにより、侵害分はお金で清算することに一本化されました。
侵害額の支払いも、支払わなければならない方が裁判所に申し立てれば、支払いを待ってもらうようにもできます。
ただ「遺留分侵害額請求権」は、侵害された人が「侵害されました!侵害額を請求します!」と手を上げなければ意味がないことは覚えておいて下さい。
遺言などで残した「全財産を長男に相続させたい」という遺志も、遺留分をお金で清算できるようになったので実現しやすくなったと言えます。
遺留分のために、先祖代々の土地を分割して相続する必要もなくなりました。
また遺留分を侵害された側も、土地・建物を8分の1ずつなど使い道の難しい遺産より、現金というわかりやすい形で遺留分をもらえることになります。
まとめ
今回は、遺留分という権利によって、最低限の遺産が保障されていることがおわかりいただけたでしょうか?
- 「遺留分」とは、「最低限の遺産を相続できる権利」
- 遺留分の割合は、相続人の構成によって変わる
- 遺留分侵害額請求権は、「遺留分」という権利を侵害されたら、遺留分相当のお金を「請求できる権利」
「遺留分」という権利があるのはわかったけど、やっぱり全財産は一人に譲りたい。遺留分をどうやって準備したらいいのかなど、相続にまつわる悩みは人それぞれだと思います。
わからないことや困っていることがあれば、相続専門の行政書士にぜひお気軽にご相談ください。